ちょっと別件で。

キャパオーバーは最悪だ。
余裕がない。人に時間も合わせる余裕も、人の気持を考える余裕もない。頭は朦朧とするし、最高な仕事であっても新たに発生する作業時間ばかり気になって、前向きな提案の一つもできない。作業の中で何かを学ぶ余裕もないし、試行錯誤も細かい対応もできない。人に頭を下げ続け、ひたすら健康と信頼を失い続ける。何をとっても最悪としか言い様がない状態だけれど、どんなに避けようとしても、起こるときには起こってしまう。

常日頃から各案件の見通しを立てる努力をしていれば、大事故は防げるかもしれない。
でも小さな事故は絶えず起き続けていて、実は見て見ぬふりをしながらこの業界は回っているように思う。

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そもそも、最初に聞いたスケジュールから動かない仕事なんてほとんどない。平気で伸びるし、ずれるし、止まったかと思えば急に分裂して枝分かれしたりもする。一方で「別件が〜」みたいな言い訳が業界用語としてまかり通るように、他の仕事を一切被せず万全な状態でしか仕事を受けない人も見ない。発注側も受注側も、ある種の柔軟さを持って仕事をしていて、それで日々回っている。そのお互いの緩さは、正直とても不誠実に映ることがある。そこに仕事の質を担保できる保証はどこにもないのだ。

よく仕事をホテルやレストランの予約に例えて、勝手なスケジュール変更は、ペナルティなく予約日を変えるのと同じだと言われる。予約を受ければ当然お店は被りそうになった客を断ったり、食材を用意したり仕込んだりするわけで、それが「3日延期で。」の一声で全て無駄になったらたまったものではない。これは仕事を受注するフリーランスに対しても同じことが言える、というものだ。

基本的には分かるけれど、この例えで言うと、実は店側も結構ルーズなのを見落としがちだと思う。「別件が忙しくて〜」という言い訳は、「別の客への対応で〜」みたいな言い分で料理の質を落としたり、オーダーされた料理を何時間も待たせるのとなんら変わりがない。そんなレストランには誰だって二度と行かない。ただし客側も平気で予約やオーダー変更をバンバン飛ばすので、真摯に最高のサービスを提供し続けようとする店は精神をすり減らし続けることになる。一方が緩いと、もう一方も緩くならざるをえない。

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話は変わるけれど、12月の中頃、机を購入した。「こんな机がほしい」と伝えると、「2月中旬に作り始めるので、納品が2月末になります。この値段になります。」と案内を受けた。すぐに欲しかったので少し悩んだけれど、納得した上で欲しかったのでその内容で発注と入金をした。

ごく普通の受注生産でのやりとりだと思うけれど、発注側の期待に対して、受注側がきちんと応えられる仕組みがそこにあって、なんて健全なやり取りなんだろうと少し憧れた。

1. 作りたいものの相談を受ける。
2. 時間と費用の見積もりを出す。
3. 納得がいけば発注を受ける。
4. 約束した期日に納品する。

こんな形で仕事ができれば、理屈では無理なスケジューリングは発生せず、確かな品質のものを無理なく相手に届けることができる。相手もきちんと吟味した上で発注するし、安心して待つことができる。

広告や映像の仕事がこんなシンプルにはいかないのも分かるけれど、タスクを細分化したとき、これに極力沿っているかは意識しておきたい。特に1-2はお互いに「この内容で、この時間で、この費用で大丈夫か」と伺いを立てる行為であって、都度その姿勢を保ち続けることこそがプロジェクト進行において何より大事だと思う。そしてこの密なやりとりは、きっとキャパオーバー状態では到底かなわないものだ。

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コミュニケーションの雑さが誠実な物づくりを阻んでいて、その雑さの根源にあるのは業界全体の忙しさなのに、それをどこか是としてしまっている雰囲気。そんな図式にも、すごく嫌気がする。

その一端を担うような真似は絶対にしたくないし、何より自分を頼ってくれた相手には誠意をもって丁寧に対応したい。自分と業界の現状を鑑みながら、キャパオーバーを回避しながら多くの人とお仕事していくために何ができるか、無い頭を絞って考えていきたい。